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最高裁判所大法廷 昭和36年(オ)523号 判決

上告人 金英敦

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上村進、同青柳盛雄、同上田誠吉の上告理由第一について。所論は、本件在日朝鮮人連盟に解散の理由がないとし、もつて、本件接収の違法、無効を主張するにあるけれども、原審は、本件解散命令および財産接収は、原判示の如き権限を有する連合国最高司令官の要求に基づいてなされたものであり、右は憲法の規定に照らしてその効力を問題とする余地は全くないと判断しており、その判断は是認できるから、論旨は、採用できない。

同第二について。

所論一は、本件接収の根拠となつた所諭ポツダム緊急勅令(昭和二〇年勅令第五四二号「ポツダム宣言ノ受諾二伴七発スル命令ニ関スル件」)の違法と無効を理由として、もつて本件接収の無効を主張し、所論二は、本件接収が憲法二一条が保障する結社の自由を侵犯する団体等規正令および結社の財産的基礎を侵奪する解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令の如き違憲、無効の法規に基づくものであるから無効であるとし、所論三は、本件接収が憲法二九条一項の財産権の保障に違背する故に無効であるとし、所論四は、団体等規正令、解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令、および右政令に基づく本件解散、団体指定、財産接収の処分が憲法三一条の正当手続の保障に違反し無効であるとし、所論五は、基本的人権に関する規定については、原判決の如き占領法規超憲論の生ずる余地はない旨主張するにある。

しかしながら、右勅令第五四二号は、日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力があり、団体等規正令および解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令は、この勅令に基づく政令であり、その内容が、占領目的達成のため在日朝鮮人連盟を解散せしむべき旨の連合国最高司令官の指令および昭和二三年三月一日付日本政府宛覚書「解散団体所属財産の処分に関する件」の要求を逸脱したものではないから、それが憲法に違反するものであると含とを問わず、その効力を有するものとなすべきである(当裁判所大法廷判決昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月八日言渡、刑集七巻四号七七五頁参照)。したがつて、所論各処分が超憲法的権力の作用として行われたとする原判決の判断は正当であつて、基本的人権に関する法規であるからといつて、別異に結論しなければならないものではない。

論旨は、すべて、採用できない。

同第三について。

所論は、本件接収は、陸戦ノ法規慣例ニ関スルヘーグ条約の条規およびポツダム宣言に違反し、無効であると主張するにある。

しかしながら、ポツダム宣言を受諾した日本国としては、前示指令および覚書の効力の有無を審査し判断する立場にない。所論は、その審査判断をなしうることを前提とするものであつて、前提において既に失当である。

論旨は、すべて、採用できない。

同第四について。

所論一中には、本件処分の憲法、国際法違反の主張もあるが、該主張の採用できないことは、前述のとおりであり、右主張を前提とする所論は、前提において既に失当でおる。

次に所論には、本件建物の所有権は占領軍の施策の一として占領期間中に限り信託的に一時国庫に帰属していたにすぎないものであつて、占領の終了と同時に原所有者の権利は復活する関係にあり、国は本件建物の処分権能をもつていなかつたにもかかわらず、ほしいままにこれを処分したのであるから、国に不法行為責任があるとの主張がある。しかしながら、所論不法行為に基づく上告人の請求については、第一審で請求棄却の判決がなされているところ、上告人はこの点の附帯控訴をしなかつたのであるから、既に原審で審理判断の対象とされていない。右所論は、ひつきよう、原判決に影響を及ぼさないものである。

所論二は、いわゆる戦後復権の原則に基づく補償を云為するにあるが、右原則の適用を請求原因とする上告人の請求はすべて、第一審判決において請求棄却となつているところ、この点についても、上告人は附帯控訴をしなかつたため、原審で審理判断の対象とされていないのであるから、右所論も、前同様、原判決に影響を及ぼさないものである。

所論三は、講和成立の現在としては、憲法二九条三項を実定的根拠規定として本件接収処分に対する正当な補償が与えられねばならないと主張するにあるが、この主張は、本件接収処分が公用徴収に属することを前提とするものであるところ、団体等規正令および解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令は、団体等規正令第二条に定める団体を消滅せしめてその活動を禁圧するためにその財産をも没収する趣旨であると認められ、これに基づく本件接収は、本件建物を公共のために用いる目的で行われたものでないのであるから公用徴収に当らない、とした原判決の判断は、正当として是認できる。論旨は、前提において既に失当である。

所論四は、本件処分よつて日本政府が不当利得をした旨主張するにある。

しかしながら、前段説明の趣旨により、それは、法令に基づきなされたものであることが明白であるから、結局、原判決がこれを不当利得に当らないとした判断は、正当として是認できる。

所論五は、日本国との平和条約第一九条(d)項との関係を云為するにあるけれども、それが原判決に影響を及ぼさないものであることは、既に説明したところにより了解すべきである。

論旨は、すべて、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 横田正俊 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎 岩田誠)

上告理由書〈省略〉

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